Straight

広義苑【#006】円理

2026.06.28

この企画は、芸人の九月と、彫刻家/文筆家のコニシムツキによるラジオ番組です。
辞書を引いて出てきた単語をこねくり回して面白がる。ただそれだけの時間を過ごします。

Podcastでも、ブログ記事としても好きな形で。



コニシ:広義苑でございます。では今回も早速辞書を引いていきましょう。ストップお願いします。

九月:はい、じゃあストップ。

コニシ:『円理(えんり)』。

九月:円理?

コニシ:和算の一算法。もともとは円や球に関する算法一般を指していたが、建部賢弘(たけべ・かたひろ)や安島直円(あじま・なおのぶ)らが、円弧の長さなどを無限級数で求める方法へと発展させた。……めちゃめちゃ数学の。

九月:、しかも日本の。円理。あの、日本の数学のあれだ。江戸時代とかに、数学って西洋で生まれたものだと思いがちだけど、実は日本にも数学者はいたんだ、みたいなやつだ。

コニシ:そうですね。たぶん、この「円弧の長さなどを無限級数で求める」って、円周率のことですかね。

九月:っぽいね。円周率を日本人の数学者が探求して考えたこと。

コニシ:円の理で「円理」ですね。

九月:仏教用語っぽい字面だけど、関係ないんだろうね、きっと。円の理。めちゃめちゃ数学の言葉。日本の数学って、もうないもんね。古来の和算というか。なんか書き方とかも違ったりするじゃん。

コニシ:あー、そうですね。

九月:表記法も違うみたいな。あれももう残ってないもんね。学校の数学とか全部、アラビア数字の西洋式というか。

コニシ:確かに。でも、それこそ足し算の解を「和」と呼んだり、掛け算の結果を「積」と呼んだりとか、そういうキーワードでは若干残ってますね。

九月:そっか。一応「つるかめ算」とか言うか。ギリギリ言うか、つるかめ算。ああいう文脈ですよね。いやでも、本当に数学は西洋化されたもんな。

コニシ:そうですね。

九月:アメリカとかの高校生が受けるSATの問題をパラッと見たときに、やっぱ数学はいけるなと思ったもん。

コニシ:へえー。

九月:数式が一緒だから。どうにでもなるなと思って。なんならちょっと簡単かもな、みたいに思ったのよ。だから、表記法を統一したことによって、どこの国でも地域でも数学の知識が共有されたっていうのが、数学のメリットだと思うから……円理はね、もう、いらない!

コニシ:もうね(笑)。円理じゃないシステムでやってるわけだから。円理って呼び方をしなくていい。

九月:そう。ただ、もちろんそれを作った人がいたのはすごいことだし、当時最先端ではあっただろうし、面白い発見をいくつも含んでると思うけど……俺、この企画始まってから初めて言いますけど、この言葉、俺、覚えません。

コニシ:(笑)。

九月:覚えません。

コニシ:広義苑初の「いらない言葉」です。

九月:いらないです。πでいい。絶対そのほうがいいです。

コニシ:確かに。

九月:だって、そっちで習うし。人に教えるときもそのほうが話早いし。そもそも人名からして読みにくかったでしょ?

コニシ:まあ確かに。最近の人の名前じゃないですもんね。漢字とか。知らない四字熟語かと思って、読むの戸惑っちゃった。

九月:だから、もうそういうことですよ。つまりは過去の遺物です。言い切ってしまうと。この数学者もそんなに有名なのかなあ。

コニシ:まあ、その道では有名な人の可能性はありますけど。

九月:やっぱ学問によって、過去の人がどれくらい偉いかって違うと思うんですよ。例えば歴史学とか宗教学とか、時代の制約がある分野なら、「1800年の人はこう考えていた」こと自体に価値があるじゃないですか。政治とかだったらね。

コニシ:はいはい、そうですね。

九月:だけど数学でしょ? 今のほうが新しいなら、今のほうが合ってるんですよ。

コニシ:確かに。更新が明確な分野だろうから。

九月:もちろん、その時代でこんなことまで分かってたのすごいな、とか、見るべきものはあると思いますよ。でも、それはもう数学の話じゃないから。

コニシ:ルール自体はずっと同じですもんね。理というか。

九月:そうそう。だから文化史みたいな文脈で、「日本の昔の数学者たちはこんなことを考えていて、それがこれに使われていた」っていう話は全然面白い。ブラボー。ただ、円理そのものを勉強しようとは俺は思わない。正直思わないし。

コニシ:すいませんね、リスナーで円理ファンの人がいたら。

九月:本当申し訳ない。円理オタク、ごめん。本当に。でも、その時代でこんなことまで分かってたのすごいな、とか、見るべきものはあると思いますよ。でも、それはもう数学の話じゃないから。

コニシ:ルール自体はずっと同じですもんね。理というか。

九月:そうそう。だから文化史みたいな文脈で、「日本の昔の数学者たちはこんなことを考えていて、それがこれに使われていた」っていう話は全然面白い。ブラボー。ただ、円理そのものを勉強しようとは俺は思わない。正直思わないし。すいませんね、リスナーで円理ファンの人がいたら。本当申し訳ない。円理オタク、ごめん。本当に。

コニシ:でも、この発展させた人たちの名前、二人目の安島直円(あじま・なおのぶ)。この人、直能の「直」に、円の「円」なんですよ。

九月:えー! なんか、なるべくしてなった感ありますよね。藤川球児と一緒だ。その道の人になる前提みたいな名前じゃん。

コニシ:親が「この子は円の計算を発展させるぞ」って思って付けたみたいな。

九月:でも、きっと昔の時代だから、欧米もそうだったろうけど、パトロンみたいな人がいて、数学の才能があるやつらが技術を競う、みたいなことだったと思うんですよ。それ自体がすぐ経済に結びつくわけじゃないから。腕自慢たちが円周率をいっぱい計算した、みたいな。そういう歴史ですよ、たぶん。

コニシ:まあ、そうですね。

九月:それ自体は「そういう時代もあったんだな」と思うけど、今はパソコンでターン。

コニシ:(笑)

九月:(笑)。いや、確かに。円周率なんてパソコンでバーッと出るじゃないですか。……あ、でもそっか。ここまで俺、円理に対して舐めたこと言ってたけど、今ふと思ったら、俺、3.1415までしか覚えてないな。

コニシ:ああ、語呂合わせありましたね。

九月:あるけど、それ以降知らないから、たぶん円理ユーザーというか、円理戦士たちはもっと知ってるはずだから、そこはちょっと見どころあるかもな。そもそも。

コニシ:確かに。どういうシステムだったんだろう。その計算方法は見どころありそう。

九月:最初、円の長さとか直径を測るってなったときに、よく言う話で「完全な円」ってないじゃないですか。

コニシ:まあ、そうですね。

九月:現象の世界には。円を書いても線の幅が出ちゃうから、どうしても誤差が生まれるとか、そもそも完全な丸は作れないとか、どこかで角ができるとか言うじゃないですか。

コニシ:接地面が本当の球ならゼロになるはず、みたいな。

九月:そうそう。理念上のものにしか存在しない、みたいな。でも、それをあの時代に考えてたってすごいよね。

コニシ:まあ確かに。それはすごいことですよ。

九月:目に見えるもので何でも処理したいだろうに、目に見えない円というものに挑んだっていうのは、すごいロマンのある話ではありますよ。……ちなみに俺はね、完全な円、見たことあるんですけど。

コニシ:お、すごい嘘。

九月:6歳のときに。

コニシ:6歳だから見えたものとかじゃないですか、それ。

九月:夜中に目が覚めたら、ベッドの横に真理の扉があって。真理の扉を開けたら、その奥に完全な円が見えました。

コニシ:トトロみたい(笑)。

九月:完全な三角形もありました。

コニシ:ガンツだった可能性が(笑)。

九月:ガンツの世界観か(笑)。臨死体験してる。いや、でも、本当に純粋な知への探求のロマンみたいなものは尊敬しますよ。

コニシ:僕も数学とかはさっぱりなんですけど、数学の分野にある、「理論的にはこうなる」とか、「こういう矛盾がある」とか、そういう話ってワクワクしますよね。

九月:するね。面白いね。

コニシ:それこそモンティ・ホール問題とか。

九月:あー、大好き。

コニシ:ああいう思考実験とか、シュレディンガーの猫とか。それこそ使いたい言葉というか。漫画とかにもよく出てくる。

九月:出てくる、出てくる。

コニシ:それこそ最近だと『呪術廻戦』にも完全な球体が出てきましたからね。具現化して、それをぶつけることで無限の圧力が生まれる、みたいな。なんか、人間ってそういうものにワクワクするようになってるんでしょうね。

九月:いや、そうね。真理というものをちょっとかじるだけでも、「なんだその仕組みは」ってなる。たぶんそれって、我々が有限だからなんだろうね。命あるものって、どうしても死が待ってるし、体っていうもの自体が物理的な拘束じゃん。

コニシ:まあ、決まってますからね。

九月:この場所にいなきゃいけない、外へ溶け出していけない。そういう時間的にも空間的にも有限な我々が、真理という無限のもの、超越的なものへ憧れる。神様とかと一緒だもん。だから、円はすごいんだ。

コニシ:だからこの人たちは戦ったんだ。円と。無限と。

九月:そう。自分の体は有限なのに。それはもう敬意を表する。それはすごい。きっと亡くなられた方だろうし、自分たちが有限だっていうことは分かってたと思うし。だから俺は胸を張って言いたい。後世を生きる我々は、あなた方がたどり着いたところより先まで、円のこと分かってるよ。俺たちのほうがすごいよって。ご苦労様って。何桁いった? 7桁? 8桁? バカか、って(笑)。

コニシ:嫌な子孫がはびこったな(笑)。

九月:「スパコンって知ってる? スパコンっていうのがあってね、今、君たちの知らない桁数までいってるんだよ」って言いたいよな。

コニシ:なんかスパコンで思い出したんですけど、また全然違う話かな。今、スパコンとか量子コンピュータとか言ってるじゃないですか。それに伴って半導体がどうだとか、接続部品で銅が高騰してるとか、そういう話を聞くじゃないですか。「ああ、そっか、そうだよな」って思ってたんですけど、ここにきてめちゃくちゃ伸びてるのがダイキンらしいんですよ。

九月:ダイキン? あのエアコンの?

コニシ:はい。「ダイキン?」ってなるんですけど、サーバールームとかスパコンってめちゃくちゃ熱くなるじゃないですか。

九月:はいはい。

コニシ:だから空調で冷やさないといけない。

九月:なるほどね。

コニシ:大量のコンピューターを置いて管理してるサーバールームって気温が上がるから、熱暴走したらいけない。『サマーウォーズ』の氷じゃないけど、冷やさないと使いものにならない。ってなると、性能のいい空調が必要になる。液冷却とかもダイキンが参入してるみたいで、海外のスパコン関連企業がダイキンと提携したり、導入したりしてるらしい。

九月:今、生成AIですごいって言うもんね。電力消費とか。そこで必要になるのが「冷やす」ってことなんだ。

コニシ:最後は、ちょっと原始的な「冷房いるよね」に戻ってくるんだ。そこ重要なんだっていうのが面白い。

すごいな。「風が吹けば桶屋が儲かる」じゃないけど。

コニシ:いや、本当にそうです。すごいな。

九月:……あ、逆か。「風が吹けば桶屋が儲かる」は、自然現象から文明の末端へ影響が出る話だけど、今回は逆なんだ。

コニシ:「桶屋が儲かるなら風を吹かせなきゃ困る」っていう話になってる。

九月:ってことだよね?!逆向きなんだよ(笑)。逆向きってことは量子コンピューターなんじゃない?量子の世界って、なんか逆らしいよ。俺よく分かってないけど、時間が逆に行くとか言うじゃん。

コニシ:いや、でもそうですね。そういうことじゃん。面白いですよ。

九月:面白いね。……あ、今すごかった。量子ことわざが出ましたよ。

コニシ:量子ことわざ(笑)。

九月:「風が吹けば桶屋が儲かる」じゃなくて、「桶屋が儲かったから風を吹かせなきゃいけない」。量子ことわざだ。ことわざの世界にもミクロの世界があったんですね。

コニシ:だからここで円理だ何だって言ってるけど、その手前にはやっぱり「風吹いて涼しくなきゃやってられないよね」とか、「飯食わなきゃダメだよね」っていう世界があるんじゃないかな。

九月:そう。身体的な暮らしがあるんだよ。どうせこの人たち江戸時代でしょ。円理とかやってる中で、食糧生産だって今ほど安定してないし、暮らしはいろいろ大変だったはずなんだよ。

コニシ:そういう人たちが研究とか勉強するためには、まず飯が食えてないとダメだろ、っていう話はずっとある。

九月:背景があったんだよ。そう考えると、この人たちはその背景にどれくらい貢献したんだろう、とか、もしかしたらそういうこととは無関係に数学を探求したのかな、とか。どんな生き方があってもいいし、美しいよな。

コニシ:まあ、確かに。この研究がおまんまを食うための何かに、めちゃくちゃ貢献した可能性もありますしね。

九月:……ない可能性もあるし。たぶん、ない可能性のほうが高いけど(笑)。いろいろ考えた結果、俺は分かったよ。俺、この人たちより、日本でサツマイモを流行らせた青木昆陽のほうがすごいよ(笑)。

コニシ:ありがとう、青木昆陽。この土地で育てやすいものを広めてくれて。

九月:飢饉のときにサツマイモを広めて、みんなの腹を膨らませてくれてありがとう。いや、芋、ありがとう(笑)。サツマイモ、今も食べてるよ。

コニシ:仕方なく食べてたものじゃなくて、今でも普通に「美味しいから食べる」っていうのがありがたいですよね。

九月:うどん屋でも天ぷらで当たりだもんな、サツマイモ。

コニシ:飢えをしのぐためじゃなくて、「芋食いたいな」で食べてるのがありがたい。

九月:食いたい、芋。全然食いたい。焼き芋おいしいもん。

コニシ:芋の天ぷらって、何歳になっても最後まで取っておくよね。

九月:取っときますね。サツマイモの天ぷら、マジで肉ぐらいうまいよな。肉、魚に匹敵するうま味ある。びっくりするもん、あれ。

コニシ:天ぷらって、海老とか肉以外もポテンシャル高いのがいいですよね。茄子とか、ちくわとか。

九月:普段ちょっと弱めのキャラクターが、一気に強くなる感じ。天ぷらって、脂身の少ない食べ物に、外から脂をまとわせることで、「油をアウトソーシングする」料理じゃないですか。

コニシ:そうです。きのことかもね。

九月:だから化けるんだよ。普段の弱点を補ってるから。逆に言うと、牛肉とかでやると、そんなにうまくならない。

コニシ:分かります。僕、牛カツってそんなにピンときてないんですよ。

九月:そうそう。元々脂があるから、外から足す意味が薄くなる。だから牛カツって作戦がいるじゃない。トンカツも基本ロースでやるでしょ。豚バラのカツとか、トントロカツとか聞いたことないもん。

コニシ:確かに。

九月:ぐちゃぐちゃになっちゃうから。そう考えると、やっぱ適材適所ってあるね。……で、豚で思い出したんだけどさ。最近流行ってるトンカツ、俺めっちゃ怖いんだよ。

コニシ:そんなのあるんですか?

九月:食べログのトンカツランキング見てほしいんだけど、最近マジでレアかつばっかなの。

コニシ:はあー。豚のレアは怖いですね。

九月:怖い。ギラン・バレーとかあるからね。食中毒の一歩先みたいなやつ。でも一応、低温調理っていう技術はあるわけじゃない。六十何度だったかな。沸騰させなくても、一定時間その温度を保てば火が通るっていう。だから、身は赤っぽいけど火は通ってます、っていう調理法がある。これ、リスナーのみなさんも覚えておいてほしいんですけど、低温調理が成功した肉って、一様に薄ピンクなんですよ。

コニシ:はいはい。ムラがない。

九月:そう。ムラがないんです。全部きれいなピンクなら成功してる。

コニシ:ローストビーフみたいなイメージ。

九月:でも、ムラがあったら終わり。だから食べログとかレビューサイトで、人気店の写真を見てほしいんだけど、八割くらいレアかつで、その半分ぐらいムラがある(笑)。

コニシ:(笑)。確かに。

九月:トンカツで当たりたくないんだよ。

コニシ:牡蠣とか鳥刺しって、「リスク承知で食べる」覚悟があるじゃない。でもトンカツって、普通のトンカツでも十分うまい。だから割に合わないんだよ。

九月:真っ白のサクサクでいいのに。しかも、生っぽいのが出てきたとき、自分でどうにもできない。例えば『さわやか』のハンバーグって、鉄板が熱いから、自分で焼きながら食べられるじゃない。「ちょっと怖いな」と思ったら、自分で焼ける。でもトンカツって手元にフライヤーないから(笑)。

コニシ:確かに(笑)。しかももう切っちゃってますしね。

九月:そう。「もうちょっと揚げてください」って言いづらすぎる。レアで出すのが売りなんだから。

コニシ:だから、みなさんもレアかつ見たら気を付けてください。色ムラあったら危ないから。

九月:……ちょっとコニシさん、写真見せますね。店名は伏せますけど。

コニシ:(写真を見て)うわっ……。本当だ。全然ムラある。

九月:ムラあるでしょ。ムラがあったらダメっていうルールで言うと、結構あるんだよ。これなんか、おしまいだよ。

コニシ:透明感すらある(笑)。

九月:だから俺、レアかつ怖いんです。しかも今、名店と呼ばれるところは、たぶん新鮮な豚肉を仕入れて、保存や流通管理もしっかりしてるから、食中毒を出さずに済んでるんだと思う。でも、これが流行って大衆化されたら怖いぞ。

コニシ:そうね。

九月:松屋とかで(笑)。

コニシ:そういうチェーン店が、管理や手間をそこまでかけられないまま真似し始めたら怖いですね。

九月:そう。「レアかつ定食800円」とか始まったら、一斉回収とか起こりそうで怖い。

コニシ:生レバーが食べられなくなったときと同じ流れを踏むんじゃないかな

九月:……で、たぶんなんだけど、円理を探求してた人たち、生で肉食ってるよな。

コニシ:(笑)。

九月:知らないから、こいつら。

コニシ:世代的にはね。

九月:生レバーも食ってるだろうし、法律もないし、火をどれくらい通せばいいかっていう知識も、今ほど定まってない。円理ばっかり調べてるやつなんて、肉も「食えそうだから食うか」ってなってると思う。

コニシ:火が通るまで待ってられない。一桁でも多く計算したいから(笑)。

九月:腹壊しながら計算してたと思うよ。何回も食あたりしながら。そうやって求めたんだよ。

コニシ:立派なのか、みっともないのか分からないけど(笑)。

九月:まあ、立派ってことにしてあげよう。当時の限界もあるんだから。未来の人から見たら、俺たちもきっと同じなんだよ。未来じゃ当たり前のことを、今の俺たちは平気でやってる。だから、生で肉食うやつ見て「アホだな」って思っても、未来から見たら近いことを俺たちもやってるんだろうね。

コニシ:でも、そのせっかちさが、生八ツ橋を生んでますからね。

九月:(笑)。

コニシ:「こっちでいいじゃん」っていう。

九月:でも、生八ツ橋って鮮度の食べ物じゃなくない?

コニシ:せっかちなやつがいたんじゃないですか(笑)。

九月:違う違う(笑)。お土産屋で売ってるんだから。「一個ください」って言われてから目の前でこねるものじゃない(笑)。

コニシ:でも、今食べると、生八ツ橋が完成されすぎてて、焼く意味分かんなくない?

九月:確かに。カリカリの八ツ橋、全然そそらない。なんか、お供え物の味するんだよな。まずいわけじゃないんだけど、お供え物感が強すぎる。俺、持論があってさ。「嬉しいお菓子はパーティーの味がして、嬉しくないお菓子はお供え物の味がする」んですよ。

コニシ:(笑)。確かに。二つに分けるなら、そっちですね。

九月:例えばケーキで言うと、チーズケーキはめっちゃパーティーの味。ガトーショコラもパーティー。でもモンブランは、お供え物の味なんだよ。

コニシ:(笑)。うまいんだけどね。

九月:そう。うまいんだけど、お供え物側なんだよ。……で、この円理調べた人たち、モンブラン食べたことないだろ。チーズケーキもないでしょうしね。

コニシ:……俺たちの勝ち!

九月:(笑)。勝ち負けで歴史語ったら終わりだって。今のほうがいいに決まってるんだから(笑)。でも、「今のほうがいい」って言えてる間が花だよな。それだけ文明が進展してるってことだから。いつ逆転してもおかしくない。

コニシ:まあ、日本も一回山を越えちゃった感ありますもんね。

九月:幸福最大値というか。そう考えると、円理の人たちと俺たちって、そんなに変わらないのかもしれない。

コニシ:……でも僕らは、ゲームボーイからSwitchまでをリアルタイムで楽しめたっていうのは大きいですよ。

九月:あ、それはでかい。でも、こいつら古典落語を新ネタで見てるんだよ。

コニシ:(笑)。

九月:めっちゃすごくない?新ネタで古典落語を見られるんですよ。最初の『芝浜』とか、すごかったと思うよ。マジ熱かっただろうね。最初の『死神』とかさ。

コニシ:「ここで終わんのか!」って。

九月:「これは残るぞ」って、絶対なってたよ。

コニシ:確かに。今でいう「新作ゲーム出るらしいぞ」ぐらいのテンションで、「新しい落語が来るらしいぞ」って。

九月:そうそう。「前のやつイマイチだったけど、今回は面白いらしい」とか言ってたんだろうね(笑)。

コニシ:時代ごとにちゃんとエンタメがあるんだよ。

九月:いやあ、『死神』の初日見てえな。あのロウソクの設定から始まるの、すごい導入だもん。

コニシ:その設定を最後まできっちり活かす終わり方も含めて、本当に完成度が高い。「何も言わないから、とりあえず高座行って」

九月:「ネタバレしないから」「マジでエグかったから」って口コミだけで広がっていったんだろうな。

コニシ:仲間内でも、「……見ました?」「まだ見てない組は、とりあえず行って」みたいな会話があったんじゃない?

九月:で、それを断って円理を計算するやつがいるんだよ(笑)。俺は一桁でも多く計算したい(笑)。

コニシ:俺はこっちのほうがおもろいから。

九月:でも全員の命のロウソクを平等に死神が消すわけで。命には終わりがある。有限なんだよ。

コニシ:……結局、なんだこの話(笑)。

九月:文明っていうのは変わりゆくものだし、一人ひとりは有限である。でも、語り継がれるものもあれば、真理に挑む美しさもある。繰り返していくものなんだろうね。『ライフ・イズ・ビューティフル』的なことなんじゃない?

コニシ:ああ。これもやっぱり…円環を…なす…

九月:適当に言うな(笑)。全然なしてないだろ、まだ。

コニシ:収まらなかったか(笑)。

九月:「風が吹けば桶屋が儲かる」のところで終われば、一番きれいだったんだよ。あそこが一番気持ちよかった。

コニシ:まあ、そうですよね(笑)。ということで、今回は円理をないがしろにしたり、ありがたがったりする回でした。

九月:知らないからこそ、好き勝手言えました(笑)。

コニシ:あと、文系二人が理系の言葉を前にして、屁理屈をこねるしかなかったという回でもありました。

九月:俺たちは無力だからね(笑)。

コニシ:ということで今回はこの辺で。円理でした。

九月:ありがとうございました。

コニシ:ありがとうございました!

九月

コニシムツキ